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社会を変える次世代インフラ
「SDx」の海外導入事例

ITの世界で起きつつある「SDx」というパラダイムシフト

これまでのITの歴史を振り返ると、かつてのメインフレームによる集中処理からクライアント/サーバ構成による分散処理、Webコンピューティングへと推移し、さらに現在はクラウドが全盛期を迎えつつある――というように、おおよそ10~20年周期で大きなパラダイムの転換が起こっています。
そして、今起きつつあるのが「デジタル・トランスフォーメーション」の時代。デジタル・トランスフォーメーションとは、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「デジタルの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」とする概念。これを、企業のICT環境で実現する際にキーテクノロジーになると考えられるのが、仮想化ネットワークをはじめとするSDx(Software Defined Everything)です。

その目的は、“物理からの解放”とも言えます。現在の企業のネットワークは、スイッチやルーター、ファイアウォール、ロードバランサーなどの多様な機器から構成されています。この物理的な仕組みは規模が拡大するにつれて複雑化し、さまざまな制約が増えていきます。安定したQoS(サービス品質)の確保、セキュリティ強化といったビジネス側からの要求に応えるために煩雑なオペレーションが発生し、管理コストの増大に直面してきました。
そこに仮想化ネットワークを導入することで、 上記のような機器ごとに細分化・専門化された技術者への依存を最小限に抑えられるようになります。システムの運用コストを削減するとともに、管理者はネットワークの最適化や構成変更、トラブル対応などに伴う煩雑な作業から解放され、企業はその人的リソースをビジネス支援や新規アプリケーションの企画など本来の業務により集中できる環境が整うようになるのです。

SDNによるネットワーク制御方式のしくみ

ITとOTの融合で第4次産業革命を主導

SDxによって仮想化されたネットワークは、企業や産業といった枠組みにおいても、イノベーションを成し遂げていくうえでの必須の技術となっています。
現在、製造業の分野ではドイツが国家を挙げて推進している「Industry 4.0」、米国が得意とする“データによる価値創造”を武器に先進企業群が先行する「Industrial Internet」など、第4次産業革命を見据えた取り組みが活発化しています。
そうした中での大きな課題のひとつが、これまで企業システムを中心に効率化や価値創造を行ってきたIT(Information Technology)と、さまざまな産業分野で稼働している装置や機器の制御を担っているOT(Operational Technology)の融合です。
これまで分断されてきたITとOTがつながり、両システム間の相互アクセスやデータ交換が可能となれば、そこからはかつてない付加価値が生み出されていきます。工場や生産活動の“見える化”は言うまでもなく、バリューチェーン全体の状況を把握し、的確な分析・判断を行い、人・モノ・機器を正しくコントロールすることで、多様化する顧客の要求に迅速に応えることが可能となるのです。
たとえば米・GEは、Industrial Internetの概念を発展させ、よりフレキシブルなITとOTの融合を実現するアーキテクチャーとして、「SDM(ソフトウェア定義マシン)」と呼ばれるモデルを提唱しています。ベンダーや年式を問わず、あらゆる装置や機器の機能を仮想化するものです。
SDMはローカルアプリケーションでの実行はもとより、クラウドを介した大規模な分散コンピューティングのアプリケーションとしても実行可能で、Industrial Internetに潜在していた複雑性と断片化を最終的に克服するとされています。
高品質の製品を生み出すことは、ものづくりの基本であり、伝統的に日本企業の強みとされてきましたが、それが属人化された“熟練”や“匠の技”のみに依存したものであったのでは、もはや通用しない時代を迎えています。モノからコトへ、製造業のサービス化といった動向も見据え、フレキシブルなネットワークによる“つながり”をしっかり確保することが、グローバル競争を戦う上での前提条件となりつつあります。

スマートシティ・バルセロナが推進する社会変革

ITを高度活用した社会変革の先進国として知られるスペインのバルセロナは、地域一帯を光ファイバー・ネットワークで結び、さまざまな都市サービスにIoTシステムを取り入れた「スマートシティ・バルセロナ」プロジェクトを推進しています。これは、SDxの可能性を考えるうえで、とても参考になる取り組みです。
例えば、市内全域に約2万個のスマートメーターを設置し、各地区のエネルギー消費量を監視することで省エネ化を図っています。廃棄物管理においても、各世帯の廃棄物レベルを監視して収集ルートを最適化するほか、センサーのさらなる強化によって有害な廃棄物を検知する仕組みを構築し、統合していく計画です。
バルセロナでは駐車場にもIoTのシステムが実装されています。アスファルトに埋設されたセンサーが駐車中の車両の有無を感知し、利用可能な空スペースにドライバーを誘導するというものです。ドライバーは駐車料金をオンラインで支払うことも可能です。
こうしたスマートな都市インフラを実現するIoTシステムの基盤を担っているのが、SDxによってもたらされる仮想化ネットワークの技術なのです。

クラウドですべてがつながる

SDxでデジタル・トランスフォーメーションの時代に備えよ

SDxにより様々なシーンでの効率化が図られますが、ソフトウェア定義により管理の負荷軽減が実現できても、現実には物理層のネットワーク機器は依然として存在します。監視やメンテナンスの必要性がゼロになるわけではありません。
また、複数のユーザやテナントが同じインフラを共有利用するため、たとえ技術的にはセキュアであったとしても、社内ポリシーやコンプライアンス上の制約からシステムの実装が認められないケースがあります。
さまざまなネットワークサービスを論理的に再現するオーバーレイの処理にもオーバーヘッドが発生するため、物理的に独立したネットワークを占有する場合と比べれば、安定したパフォーマンスの確保が不利になります。ただし、こうした側面はあったとしても、それをはるかに上回る大きな価値をSDxによって得られることを理解すべきです。
たとえば、新規ビジネスの立ち上げやグローバル進出、M&A(企業の買収・合併)などによる組織再編が行われた際にも、仮想化ネットワークを採用したインフラであれば迅速に体制を整えることができます。SDxによって実現する集中制御による運用効率化やZTPによる導入の簡素化、ポリシー制御によるガバナンスの強化なども、ビジネスをいっそう力強く加速させることでしょう。いま得られるメリットを最大限に享受しながら、来たるデジタル・トランスフォーメーションの時代に備えることこそ、企業にとってもこのうえない得策と言えるのです。