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インボイス制度が中小企業に与えた
影響とは?
税理士がわかりやすく解説

インボイス制度が中小企業に与えた影響とは?税理士がわかりやすく解説

開始に際して混乱も起きた「インボイス制度」。昨年の10月にはじまってから約4か月が経った今、中小企業の現状はどうなっているのでしょうか。今回は、税理士として多くの中小企業をサポートする土屋会計事務所代表の土屋裕昭氏に話をうかがい、インボイス制度が中小企業に与えた影響や、今後に向けて気をつけるべきことを解説します。

目次

インボイス制度にもとづく消費税の申告は、
すでにはじまっている。

導入をめぐってさまざまな議論もあったインボイス制度が、2023年10月よりはじまりました。開始から4か月以上経った今、中小企業はどのように対応しているのでしょうか。

「インボイス制度は、消費税の納税額にかかわる制度。消費税は決算から2か月以内に申告しなくてはならないので、10月決算の企業はすでにインボイス制度にもとづく消費税の申告を済ませている状況です。また、一般的な3月決算の企業でも、すでにインボイス制度にもとづいた経理処理を粛々と行っているようです」(土屋氏・以下同)

インボイス制度とは、消費税の仕入れ税額を控除のために、インボイス(適格請求書)の入手と保存が必要になる制度です。この制度が導入された目的は主に二つあり、一つは軽減税率の導入で8%と10%の複数の税率が存在するようになった状況を明確化すること。もう一つは、従来の消費税納付にかかわる不公平感の是正だといいます。

「消費税は、事業者が消費者や取引先から売上に乗せて預かった消費税額から、仕入れや外注、経費などの支払いに乗せて払った消費税額を差引いた金額を納税する仕組みです。でも今まで、売上が1,000万円を超えてない事業者(免税事業者)は消費税の納税が免除されていました。そのため、たとえば400万円の仕事をした場合、消費税として上乗せして請求した40万円が、そのまま免税事業者の利益になっていたのです。インボイス制度はこの益税を解消する手段だともいわれています」

予想されていたほどの混乱は起きていない

インボイス制度の導入は、すでに売上が1,000万円を超えている事業者(課税事業者)として消費税を納税してきた企業にも影響をおよぼします。課税事業者が免税事業者との取引を継続していると消費税分を控除できず、今までにない損失が生じる可能性があるからです。

「たとえば、企業が外注先に400万円の仕事をしてもらった際には消費税を乗せて440万円を払います。その商材をエンドユーザーに2,000万円で販売すると消費税は200万円。この場合、預かった消費税200万円から支払った消費税40万円を引いた160万円を納税することになります。ところがインボイス制度のもとでは、インボイス登録をしていない事業者に払った40万円は控除できず、企業は200万円を丸々納税しなくてはならないのです*1」

*1 経過措置により当初3年間は80%、その後3年間は50%相当額が控除可能。

このような仕組みのインボイス制度がはじまることになり、「インボイスに登録しない事業者に値引きを迫ったり、取引を停止したりするのではないか」「取引相手がインボイス登録をしているかしないかの確認作業や日々の経理業務の負担も大幅に増えるのではないか」「何より免税事業者が多いフリーランスや個人事業主の収入が減り、生活に困窮する人が現れるのではないか」などといった多くの懸念点から、混乱が起きたのです。

「制度がはじまって4か月以上が経ちましたが、予想されていたほどの混乱は起きていないという印象です。その理由としては、思っていた以上にインボイスに登録した人が多かったことや、さまざまな負担軽減措置が導入されたことが挙げられるでしょう。現時点では、ほとんどの中小企業や個人事業主にとって、思っていたほどの負担増にはなっていないことが大きいと思います」

2割特例や簡易課税、少額特例などの
負担軽減措置の上手な活用を

制度開始による混乱が、そこまで起きていない理由である負担軽減措置。ここからは、インボイス制度に関連して用意されている措置について、土屋氏に改めて解説していただきました。

「まずは今回、新たにインボイス登録をして課税事業者になった事業主は、売上にかかる消費税額から8割を控除した2割の額を納税すればよいという『2割特例』があります。事前の届出が不要で、面倒な仕入れ税額の計算も不要になるため、新たに課税事業者になった人のほとんどが活用しています。

加えて、2割特例とは別に、消費税の計算方法にはもともと「簡易課税」というものもあります。2年前の課税売上が5,000万円以下の場合、売上に、業種に応じた仕入れ率をかけた金額を納めればいいという制度で、インボイス制度をきっかけに取り入れる事業者が増えました。

簡易課税を選択すれば、取引先がインボイスに登録しているかどうかを気にする必要がなくなり、仕入れや経費について細かな計算をしなくて済みます。サービス業であれば受け取った消費税の5割を納税すれば済むので、外注費や仕入れ、経費が極端に多い企業でない限り、この方式を使った方が納税額や事務処理の負担を減らせます。

さらに2年前の課税売上額1億円以下等の企業においては、1万円未満の少額取引はインボイスを保存しなくてもよいという「少額特例」が用意されています。この制度を活用すれば、備品や食事代など少額の支払いは、必ずしも課税事業者か免税事業者かを確認する必要がなくなります。

ただ、2割特例や少額特例などはあくまで経過措置です。現時点で、それほどの負担になっていない場合でも、適用期間が終わった後、突然、納税額や事務処理の手間が増える可能性があるので注意しましょう」

2割特例や簡易課税、少額特例などの負担軽減措置の上手な活用を

正しい経理処理をしていないと、
申告時期に大変なことに

これらの負担軽減措置により、当初、想定したほどの混乱は起きていないものの、インボイス制度がはじまったことで気をつけなくてはならないことがいくつかあると、土屋氏はいいます。

「取引ごとに相手がインボイス登録をしているかどうか区分して入力することは、日々の経理処理の原則です。負担軽減措置もいずれ終わることを考えると、ここは早めにきちんとした対応しておいた方がよいでしょう。

日々の経理処理がインボイス制度にもとづく適切なものでなかったり、間違いがあったりすると、消費税の申告時期に大慌てで修正したり、対応を迫られることになりかねません」

中小企業にとって特に大きな損失につながる可能性があるのが、企業が借主でオフィスや店舗としてオーナー(大家)から借りている場合の賃料だといいます。居住用の不動産は消費税非課税ですが、オフィスや店舗などの事業用物件は課税対象です。そのため、1階のみがオフィスや店舗のマンションを所有するオーナーなどは、年間の課税売上が1,000万円以下でインボイス登録をしていない人が多いようなのです。

「賃料の支払いは毎回、請求書を発行せず、自動引き落としなどになっているケースが多いので、企業側もオーナーがインボイス登録事業者かどうか確認していないことが多いのです。月の賃料が75万円で年間900万円払っていれば、年間90万円が控除できなくなり、3年で270万円もの出費となります。オーナーが免税事業者の場合は、インボイス登録をしてもらうよう働きかけたり、値引き交渉をするなどの手を打った方がよいでしょう」

2年前の売上額によって、使える措置や制度が
変わることにも注意する

さらに注意しなくてはならないのが、インボイス制度に関する負担軽減措置や簡易課税などの制度は現在の売上ではなく、2年前の売上を基準にしたものが多いことです。

「そもそも消費税の申告の基準は2年前の売上です。たとえば、2年前の売上が1,000万円超だったが、今年の売上が600万円に落ちこんでしまった場合でも、課税事業者として納税義務が発生することになります。

また、簡易課税や少額特例などの条件となる売上額も、2年前が基準。企業の売上は年々変化しているので、今年使えた措置や制度が来年は使えないということも起こりえます。そのため、『今年、自社はどれを使えるのか』など、毎年きちんと確認する必要があるのです」

インボイス制度への正しい理解が求められる

すでに開始しているインボイス制度。これからも継続した対応が求められる中小企業は、今後どう取組んでいく必要があるのでしょうか。土屋氏によると、なかにはインボイス制度の開始で複雑化した経理処理を適切に行うために、会計ソフトを導入するところも増えているといいます。

「最近はレシートを写真で撮ると、自動で相手がインボイス登録をしているかどうか判別し、反映してくれる便利な機能を備えた会計ソフトもあります。インボイス制度に合わせてIT導入補助金の下限額が撤廃され、安価な会計ソフトも対象となったので、活用するのもよいと思います。

ただ、いずれにしろインボイス制度は、そもそもの対象や負担軽減措置など、選択肢が豊富なだけに、間違いや漏れが生じやすいのです。

そのため、まずは正しい情報を入手することからはじめ、その上でインボイス制度にかかわる自社の状況をきちんと把握し、適切な対応を取っていただきたいですね。わからないことは税務署や税理士に相談するなど、専門家の知恵も上手に活用していただきたいと思います」

※本記事は2024年2月の情報をもとに構成されています。

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